人間の業 ― 綺麗事の裏側 第97話:第5回 癌にも「個性」がある

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    人間の業 ― 綺麗事の裏側 第97話副題:癌の正体を知ることから、治療は始まる癌と聞くと、私たちはつい「癌」という一つの病気を思い浮かべてしまう。胃癌なら胃癌。肺癌なら肺癌。乳癌なら乳癌。しかし、実際の癌は、そんなに単純なものではない。同じ臓器にできた癌でも、性質が違うことがある。進行する速さも違えば、転移しやすさも違う。薬が効きやすい癌もあれば、効きにくい癌もある。そして時には、癌が見つかった場所と、癌が最初に発生した場所さえ一致しない。そのことを、身近な実例として考えさせられるのが、「山田五郎 オトナの教養講座」を開いていた評論家の山田五郎さんのケースである。--- 「肝臓に癌がある」だけでは分からない山田五郎さんは2024年、自身が「原発不明がん」と診断されたことを公表した。腰の痛みから検査を受けたところ、骨への転移が確認され、さらに肝臓にも多数の癌が見つかっていた。しかし、ここで重要なのは、「肝臓に癌が見つかったから、肝臓癌だった」という単純な話ではないことだ。山田さんの場合、検査を重ねても癌が最初に発生した臓器が分からなかった。そのため「原発不明がん」という診断になったのである。2026年1月に公開された対談では、山田さん自身が、「原発(がんの発生元の部位)がどこかを調べるのに1ヶ月かかった」と語っている。そして、その結果が出ない1ヶ月が、精神的に最もつらかったと振り返っている。ここに、癌という病気の難しさがある。--- 「どこにあるか」と「どこから来たか」は違う癌を考えるとき、私たちはどうしても、「どこに癌があるのか」に目を向ける。しかし医師が知りたいのは、それだけではない。「その癌は、どこから来たのか」ということも重要になる。最初に癌が発生した場所を「原発巣」という。そこから別の臓器などへ移ったものが「転移」である。例えば、癌が肝臓に見つかったとしても、それが肝臓で発生した癌とは限らない。別の臓器で生まれた癌が、肝臓へ転移している可能性もある。だからこそ、癌が見つかった場所だけを見て、「この臓器の癌だ」と簡単に決めつけることはできない。--- なぜ「発生した場所」が重要なのか癌は、発生した臓器によって性質が異なる。さらに同じ臓器の癌であっても、癌細胞の種類や遺伝子の変化などによって性質が変わることがある。だから治療を考えるときには、「癌がある」だけでは不十分なのである。どこから発生したのか。どの種類の癌なのか。どの程度まで広がっているのか。癌細胞にはどのような特徴があるのか。そうした情報を一つずつ集めていく。癌治療とは、単に「癌を消す方法」を探すことではない。まず、その癌が何者なのかを知ることから始まる。--- 同じ「癌」でも、同じ治療とは限らないここで、第2回から第4回までの話につながってくる。癌になったら、まず手術なのか。放射線治療はどうなのか。抗癌剤にはどんな種類があるのか。実際には、これらをすべての患者に同じように使うわけではない。癌の種類や進行度、癌細胞の特徴、患者自身の状態などを考え合わせて、治療方法を選んでいく。つまり、「癌だから、この治療」という単純な話ではない。「この癌だから、この治療を考える」のである。--- 癌にも「個性」がある少し分かりやすく言えば、癌には「個性」がある。大人しく、その場にとどまっている癌もあれば、早い段階から周囲へ広がっていく癌もある。薬に反応しやすい癌もあれば、そうではない癌もある。そして、最初に発生した場所が分からない癌さえ存在する。もちろん、癌を人間のように考えるわけではない。癌細胞には、それぞれ異なる生物学的な特徴がある。その違いが、病気の進み方や治療への反応に関係してくる。だから医師は、単に「癌がある」と確認して終わるのではない。その癌が、「どんな癌なのか」を調べる。--- 「癌になった」だけでは、まだ何も分からない「癌になった」という言葉を聞くと、それだけで恐ろしい。しかし医学的には、その一言だけでは、まだ分からないことが多い。どこの癌なのか。どんな種類なのか。どこまで進んでいるのか。どんな特徴を持っているのか。そして、どんな治療が考えられるのか。癌という名前の下には、実にさまざまな病気が存在している。山田五郎さんが経験した「原発不明がん」は、そのことを強く印象づける実例だった。癌が見つかった場所だけでは、その癌の正体は分からない。だからこそ、医師は癌の「発生した場所」を探し、細胞の性質を調べ、可能な治療を探していく。癌を恐れるだけではなく、「自分の癌は、いったいどんな癌なのか」を知る。それが、治療を考えるための最初の一歩になるのである。>この話が気に入ったら、ランキングバナーをポチッと押していただけると励みになります。
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