人間の業 ― 綺麗事の裏側 第99話:第7回 癌になったとき、人は何を選ぶのか

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    人間の業 ― 綺麗事の裏側 第99話副題:治療法を選ぶということは、生き方を選ぶということ癌と告げられたとき、多くの人はまずこう考える。「どうすれば治るのか」当然のことだろう。癌になったのだから、治したい。できることなら、元の生活に戻りたい。しかし、医師から治療法を説明される段階になると、話はそれほど単純ではなくなる。手術をするのか。薬 物療法を受けるのか。放射線治療を選ぶのか。いくつかを組み合わせるのか。そして場合によっては、複数の治療法が提示されることもある。そこで初めて、人は気づく。癌の治療とは、「癌をどうするか」だけを決めることではない。自分の身体をどうするのか。これからの時間をどう使うのか。仕事をどうするのか。家族との生活をどう守るのか。つまり、自分の人生そのものについて考えなければならないのである。「一番効く治療」を選べばいいのかここで、少し難しい問題が出てくる。癌になった人なら、誰もが「一番効く治療」を受けたいと思うだろう。しかし、医療における「一番」とは、必ずしも一つではない。治療によって癌を小さくすることを最優先する人もいる。一方で、「多少の負担があっても、できるだけ長く生きたい」と考える人もいれば、「治療で生活の大部分を失うくらいなら、今の生活をできるだけ維持したい」と考える人もいる。仕事を続けたい人もいる。家族と過ごす時間を大切にしたい人もいる。まだ小さな子どもがいる人なら、「子どもの成長を見届けたい」という思いが治療を選ぶ大きな理由になるかもしれない。逆に、長期の入院や強い副作用によって、それまで築いてきた生活を大きく変えなければならない場合もある。だからこそ、癌治療では「医学的に何が可能なのか」と同時に、「本人が何を大切にするのか」が問題になる。国立がん研究センターも、治療法を選ぶ際には、癌の種類や進行度、身体の状態だけでなく、生活や仕事、将来など本人の希望を含めて医療チームと考えていくことを説明している。 医師に任せればいいのか癌を告げられた直後なら、「先生にお任せします」と言いたくなる人もいるだろう。それは決して不思議なことではない。専門家ではない患者が、突然「あなたの癌には、この治療と、この治療と、この治療があります」と説明されても、すぐに理解できるとは限らない。まして「治療しなければどうなるのか」「治療した場合にはどのような負担があるのか」といった話まで一度に聞かされれば、頭の中が真っ白になってしまうこともある。だからこそ、分からないことをそのままにしないことが大切になる。「この治療をすると、何が変わりますか?」「治療しなかった場合はどうなりますか?」「ほかに方法はありますか?」「今すぐ決めなければいけませんか?」こうした質問をしていい。そして、自分の生活や希望も伝えていい。癌治療は、医師だけが決めるものではない。患者自身が治療について理解し、納得したうえで選択していくことが重要だからである。 セカンドオピニオンという選択それでも迷うことはある。「本当にこの治療でいいのだろうか」そう思ったときに利用できるのが、セカンドオピニオンである。セカンドオピニオンとは、現在の担当医とは別の医師に、診断や治療について意見を聞くことだ。重要なのは、セカンドオピニオン=今の病院を信用していないということではない。国立がん研究センターも、セカンドオピニオンは患者が自分の病気や治療への理解を深め、納得して治療を受けるための仕組みだとしている。転院を前提とするものでもない。つまり、「別の医師の話も聞いてみたい」というだけでもいいのである。むしろ、一度立ち止まって考えることで、自分が何を不安に感じ、何を大切にしたいのかが見えてくることもある。人は「命」だけを選んでいるわけではない癌になったとき、人は命を選ぶ。そう思われている。もちろん、それは間違いではない。しかし、本当はもう少し複雑なのではないだろうか。人が選んでいるのは、単純な「生きるか死ぬか」だけではない。どのように生きるのか。そこまで含めて考えているのである。一日でも長く生きたい。できるだけ苦痛を減らしたい。家族と過ごしたい。仕事を続けたい。自宅で暮らしたい。旅行に行きたい。好きなものを食べたい。孫の顔を見たい。人によって、大切なものは違う。だから、同じ癌、同じ治療法であっても、本人が選ぶ道まで同じになるとは限らない。「正しい選択」は、後からしか分からないそして、癌治療にはもう一つ厳しい現実がある。その時点では正しいと思って選んだ治療が、必ずしも思い通りの結果になるとは限らない。治療が効くこともあれば、十分な効果が得られないこともある。副作用に苦しむこともある。一度決めた治療方針を、その後の経過によって見直すこともある。だからこそ、「最初に選んだ治療が絶対に正しい」と考える必要もない。大切なのは、その時点で分かっている情報を理解し、自分にとって何が大切なのかを考え、医療者と相談しながら決めていくことなのだろう。癌になった瞬間から、人生のすべてを一度に決めなければならないわけではない。分からないことがあれば聞く。迷えば相談する。必要なら別の医師の意見も聞く。そして、自分の希望を伝える。癌という病気に向き合うことは、癌そのものと戦うことだけではない。「残された人生を、どう生きたいのか」その問いに、自分自身で向き合うことでもある。癌になったとき、人は治療を選ぶ。しかし、その奥で本当に選んでいるのは、自分がこれから、どう生きるのか――なのかもしれない。>この話が気に入ったら、ランキングバナーをポチッと押していただけると励みになります。
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