人間の業 ― 綺麗事の裏側 第95話:第3回 放射線は「癌を焼く」だけではない

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    人間の業 ― 綺麗事の裏側 第95話副題:癌を攻撃しながら、正常な身体を守るという矛盾癌と聞くと、多くの人がまず「手術」を思い浮かべる。癌を切り取る。それが昔からの癌治療のイメージなのだろう。そして、手術ができない場合には抗がん剤。そんなふうに考えている人も少なくない。では、放射線治療はどうだろう。「放射線を当てて、癌を焼くんでしょう?」そんな言葉を聞くことがある。確かに、放射線には癌細胞を傷つけ、死滅させる働きがある。しかし、それだけではない。現在の放射線治療は、昔のように「癌のある場所へ放射線を浴びせる」という単純なものではなくなっている。癌の位置や大きさ、周囲の臓器との関係を細かく調べ、できるだけ癌には強く、正常な組織には少なく放射線を集中させる。つまり、「癌を焼く」というより、「癌を狙い撃つ」という表現のほうが、現在の放射線治療をイメージしやすいかもしれない。--- 放射線は、癌細胞の「設計図」を壊す放射線治療で重要なのは、熱で癌を焼いているわけではないということだ。放射線は癌細胞のDNAなどに損傷を与える。細胞が増殖するためには、遺伝情報を正確に受け渡さなければならない。ところが、その設計図ともいえるDNAが大きく傷つけば、癌細胞は正常に増えることができなくなる。その結果、癌細胞が死んだり、増殖できなくなったりする。ここが、「放射線で癌を焼く」という昔ながらのイメージとは少し違うところだ。しかも、癌細胞だけが放射線に弱いわけではない。正常な細胞も放射線の影響を受ける。だからこそ、「どこに」「どのくらい」「何回に分けて」放射線を当てるのかが重要になる。放射線治療は、単純に強い放射線を一度に当てればよいというものではない。--- 一度に全部当てるわけではない放射線治療では、何回かに分けて照射することがある。これは、癌細胞にダメージを与えながら、正常な組織が回復する時間も考える必要があるからだ。もちろん、すべての癌が同じ治療を受けるわけではない。癌の種類、進行度、発生した場所、周囲の臓器との位置関係。さらに患者本人の体力や、手術・薬 物療法などとの組み合わせによっても治療方針は変わる。だから、「癌になったら放射線」という単純な話でもない。反対に、「放射線治療は最後の手段」というわけでもない。手術の前後に行われることもあれば、薬 物療法と組み合わせて使われることもある。癌によっては、手術を行わず、放射線治療を中心に治療する場合もある。つまり、放射線治療は手術や薬 物療法の「代用品」ではない。癌の状態によっては、最初から重要な治療手段の一つなのである。---「切れない癌」にも意味がある癌の場所によっては、手術で切り取ることが難しい場合がある。癌のすぐ近くに重要な神経や血管があったり、身体の深い場所にあったりするからだ。無理に切除すれば、癌を取り除くことはできても、患者の身体に大きな負担を残す可能性がある。そこで放射線治療が選択肢になる。癌の位置を画像で確認しながら、周囲の正常な組織への影響を抑えつつ、癌へ放射線を集中させる。ここには、医療機器の進歩も大きく関係している。昔の放射線治療と、現在の放射線治療を同じものとして考えることはできない。「昔、放射線を浴びると大変だった」という記憶だけで、現在の治療を判断するのも危険なのだ。--- 放射線治療は「癌を消す」ためだけではないもう一つ、知っておきたいことがある。放射線治療は、必ずしも癌を完全に消すことだけを目的として行われるわけではない。癌が進行し、痛みや出血、神経への圧迫などによって生活が苦しくなっている場合、その症状を和らげるために放射線を使うこともある。癌そのものを完全になくせなくても、「痛みを減らす」「出血を抑える」「神経への圧迫を軽くする」など、患者の生活を少しでも楽にする目的で使われることがある。ここが、癌治療を考えるうえで大切なところだ。癌治療というと、「癌を消滅させること」だけを考えてしまう。しかし実際の医療では、「癌を小さくする」「再発を防ぐ」「進行を抑える」「症状を和らげる」など、治療の目的は一つではない。同じ放射線治療でも、その目的によって意味が変わってくる。--- では、副作用はどうなのかもちろん、放射線治療にも副作用がある。放射線は癌細胞だけを選んで傷つける魔法ではない。照射された場所の正常な組織にも影響が出る可能性がある。そのため、皮膚の変化や疲労感、照射する部位によっては食欲低下、吐き気、口内炎など、さまざまな症状が起こることがある。ただし、これも、「放射線治療を受ければ必ずこうなる」というものではない。照射する場所、線量、治療期間、患者の状態によって違う。ここでも、「癌治療=こうなる」と一括りにしてしまうことが、いちばん危ない。---癌治療は、一つの武器で戦うものではない癌治療を戦争にたとえるなら、手術だけが武器ではない。放射線もある。薬もある。そして、その薬にも、従来の抗がん剤だけではなく、分子標的薬や免疫療法など、さまざまな種類がある。さらに、それらを組み合わせることもある。手術で取り除く。薬で癌の増殖を抑える。放射線で狙った場所を治療する。そして、治療によって生じる副作用を薬などで抑えながら、身体を支えていく。癌治療は、一つの方法ですべてを解決するものではなくなっている。だからこそ、「癌になったら手術」「手術できなければ抗がん剤」「それでも駄目なら放射線」という昔ながらの順番だけで考えると、現在の癌治療を見誤ってしまう。--- 「放射線を当てる」と聞いたとき、考えてほしいこともし身近な人が、「放射線治療をすることになった」と言ったとする。そのとき、「癌を焼くんだね」とだけ考えるのではなく、「何のために放射線を使うのだろう」と考えてみてほしい。癌を小さくするためなのか。手術の前後に行うのか。再発を防ぐためなのか。それとも、痛みなどの症状を和らげるためなのか。同じ「放射線治療」という言葉でも、その意味は患者によって違う。そして、その違いを理解するためには、「癌がどこにあるのか」「どの程度進んでいるのか」「どんな性質の癌なのか」を知る必要がある。癌は、名前だけで治療法が決まる病気ではない。--- 知っているつもりが、いちばん怖い「癌になったら手術」「抗がん剤を使うと髪が抜ける」「放射線を当てると身体がボロボロになる」こうしたイメージには、過去の医療から生まれたものもある。しかし、医療は変わっている。治療機器も変わった。薬も変わった。そして、癌そのものを詳しく調べてから治療を選ぶ時代になった。だからこそ、癌について昔聞いた話だけで判断してはいけない。知らないことよりも、「知っているつもりになっていること」のほうが、場合によっては怖い。放射線は、単に癌を「焼く」ためのものではない。癌の場所や状態に合わせて使われる、現在の癌治療の重要な選択肢の一つなのだ。そして次に気になるのは、もう一つの大きな治療法である。「癌の薬」と聞けば、多くの人は抗がん剤を思い浮かべる。髪が抜ける。吐き気がする。身体が弱る。そんなイメージが強い。けれど、癌の薬もまた、大きく変わっている。従来の抗がん剤だけではない。癌細胞の特徴を狙う薬もあれば、患者自身の免疫の働きを利用する薬もある。そして、薬によっては、副作用との付き合い方そのものが治療を続けるうえで重要になる。次回は、「抗がん剤だけではない『癌の薬』」について考えてみたい。>この話が気に入ったら、ランキングバナーをポチッと押していただけると励みになります。
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