人間の業 ― 綺麗事の裏側(別版):宇宙まで他国任せでいいのか――日本は欧州・ウクライナ・カナダ・豪州と独自の衛星網を築けないのか
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2026-10-18 07:35:32
人間の業 ― 綺麗事の裏側 (別版)副題:アメリカの判断ひとつで通信が揺らぐ時代。JAXAの技術を生かし、国家の命運を他国に委ねない安全保障を考えるロシアの衛星が、ウクライナを支援する米国の商用衛星に異常接近した。2026年10月17日、米国の衛星画像情報をめぐって、新たな懸念が浮上した。報道によれば、ロシアの衛星「コスモス2612」が、ウクライナ軍への支援にも関係する米国所有の衛星に接近し、一時は約3マイル(約4.8キロメートル)の距離まで近づいたという。ロシア側の意図は確認されていないが、宇宙空間での衛星の接近行動が、安全保障上の懸念を呼んでいる。【参考:Axios「Russia nears U.S. satellite, raising alarm about intent」2026年10月17日】それだけではない。10月には、トランプ政権によるウクライナ向けの軍事用衛星サービス「スターシールド(Starshield)」の利用制限が報じられた。米国政府側の判断が、ウクライナ軍の通信や無人機の運用に影響を及ぼしたとされる。トランプ大統領は関与を否定する発言をしているものの、今回の一連の報道が突きつけた問題は明白だ。自国の命運を左右する通信や情報収集を、他国の政府や企業の判断に委ねていてよいのか。これはウクライナだけの問題ではない。日本にとっても、決して他人事ではないのである。■ アメリカがいつまでも日本を守ってくれるとは限らない戦後の日本は、安全保障の大きな部分を日米同盟に依存してきた。もちろん、日米同盟には長い歴史があり、現在も日本の安全保障にとって重要な基盤である。だからといって、将来にわたって米国が常に日本の期待どおりに動くと考えるのは、危機管理として適切なのだろうか。米国の政権が変われば、外交方針も変わる。大統領の判断、議会の動向、米国内の世論、さらには米国自身の経済的・軍事的事情によって、支援の範囲や優先順位が変わる可能性がある。ウクライナは、その現実を身をもって経験している。自国の防衛に必要な通信手段であっても、他国の政府や民間企業が提供するサービスである以上、利用の条件を自分たちだけで決めることはできない。日本も同じ構造を抱えてはいないだろうか。中国、ロシア、北朝鮮をめぐる安全保障上の懸念が続くなか、万一、東アジアで緊張が高まったとき、米国がどこまで、どのような条件で日本を支援するのか。それを日本だけで決めることはできない。だからこそ、同盟を維持することと、自立した防衛能力を整えることを、対立する選択肢として考えてはならない。同盟国に助けてもらうためにも、自分たちでできることを増やしておく必要があるのだ。 ■ スターリンクを止められたら、代わりはあるのか衛星通信サービス「スターリンク(Starlink)」は、地上の通信網が破壊された地域や、通信インフラが十分に整っていない地域でも通信を可能にする仕組みとして知られている。ウクライナでは、こうした衛星通信が戦時下の通信を支えてきた。ただし、一般向けのスターリンクと、米政府の国家安全保障・防衛用途を想定したスターシールドは、同じものではない。両者には技術的なつながりがある一方、用途や運用の仕組みは異なる。今回の問題は、単に通信速度が落ちたという話ではない。戦場では、部隊間の連絡、無人機の運用、情報の伝達など、通信がさまざまな活動を支えている。衛星通信への依存が大きいほど、そのサービスが制限されたときの影響も大きくなり得る。欧州諸国がウクライナを支援していても、米国の衛星通信や情報収集能力をすぐに置き換えられるわけではない。2026年10月のロイター報道も、欧州には即座に代替できる仕組みがないという課題を伝えている。【参考:Reuters「Can Europe step in as Ukraine struggles with Starlink and US satellite data?」2026年10月14日】ここで、日本が考えるべきことがある。スターリンクを一社で置き換えることだけが答えではない。複数の衛星通信網を確保し、どれか一つが使えなくなっても、必要な通信を維持できる仕組みをつくることが重要なのではないか。通信手段を複数持つことは、災害対策にもなる。大地震や津波によって地上の通信網が寸断されたとき、衛星通信は重要な代替手段となる。つまり、宇宙通信の自立は、軍事だけの問題ではない。国民の生活と生命を守るための基盤でもある。 ■ JAXAの技術で、スターリンクを補完できないのか日本には、宇宙航空研究開発機構、JAXA(ジャクサ)がある。日本が持つ宇宙技術を、国家の自立にどう結びつけていくか。ここで注目したいのが、JAXAの光衛星間通信システム「LUCAS(ルーカス)」だ。LUCASは、地球観測衛星と静止軌道上の中継衛星との間で、レーザー光を利用して大容量のデータを中継する技術である。JAXAはこのシステムを運用しており、光通信を活用した大容量データ伝送の実績も公表している。【参考:JAXA「光衛星間通信システム(LUCAS)」】もちろん、ここは区別して考える必要がある。LUCASは、そのままスターリンクの代わりになる通信網ではない。地球観測衛星などのデータを中継する仕組みと、世界各地の利用者にインターネット接続を提供する大規模な低軌道衛星網とでは、衛星の配置、通信方式、地上設備、運用体制が異なる。したがって、JAXAの技術だけでスターリンクを直ちに代替できると断言することはできない。しかし、代替できないから何もしなくてよい、ということにはならない。日本には、光衛星間通信の技術がある。衛星の開発や運用に関する知見もある。さらに、政府は衛星通信の妨害や傍受に対処する技術の開発・実証も支援している。【参考:JAXA宇宙戦略基金「衛星を取り巻くセキュリティ技術(電波の妨害・傍受対処技術)の開発・実証」】こうした技術を積み重ね、民間企業の通信衛星や海外の衛星網と接続できる仕組みを整えていけば、特定の企業や国への依存を少しずつ減らすことは考えられる。必要なのは、スターリンクとまったく同じものを日本だけでつくるという発想に縛られないことだ。日本が得意とする技術を生かし、他国の衛星網とも連携しながら、非常時にも使える複数の通信経路を確保する。それこそが、現実的な第一歩ではないだろうか。■ 日本、欧州、ウクライナ、カナダ、オーストラリアで協力できないかここで提案したいのが、日本、欧州諸国、ウクライナ、カナダ、オーストラリアによる宇宙通信協力である。これらの国や地域は、それぞれ異なる技術、産業基盤、安全保障上の経験を持っている。すべての国が同じ能力を備えているわけではないが、だからこそ互いの強みを持ち寄る意味がある。例えば、次のような協力が考えられる。第一に、衛星通信の相互接続である。日本が独自に開発する衛星や通信設備を、欧州などが整備する衛星通信網と接続できるようにする。特定のサービスが停止した場合にも、別の通信経路へ切り替えられるよう、技術的な互換性を確保しておく。第二に、衛星画像や宇宙状況の情報共有である。ロシアの衛星が他国の衛星に接近した今回のような事例では、衛星の位置や軌道を継続的に監視し、異常な接近や妨害の兆候を早期に把握することが重要になる。各国が持つ観測データや解析能力を共有できれば、一国だけでは捉えにくい動きを発見しやすくなる可能性がある。第三に、災害や有事を想定した共同訓練である。通信衛星が利用できなくなった場合、地上の通信網が破壊された場合、あるいは電波妨害が発生した場合に、どの通信経路を使って重要な情報を届けるのか。平時から共同で検証しておく必要がある。第四に、衛星の製造、打ち上げ、地上設備、サイバーセキュリティーなどの分野で協力することである。すべてを一国で開発するには、莫大な費用と時間がかかる。各国が得意分野を分担し、共通の規格や運用ルールを整えれば、費用を分担しながら技術基盤を強化できる可能性がある。ただし、これは一朝一夕に実現する話ではない。各国の安全保障政策、機密情報の取り扱い、通信規格、費用負担、衛星の運用権限など、解決すべき問題は多い。欧州にも、現時点ですべての米国の衛星通信・情報収集能力を代替できる体制が整っているわけではない。だからこそ、危機が起きてから慌てるのではなく、平時から準備を始める必要があるのだ。 ■ 宇宙での脅威は、衛星を撃ち落とすことだけではない宇宙の安全保障と聞くと、人工衛星をミサイルで破壊するような場面を思い浮かべる人もいるだろう。しかし、脅威はそれだけではない。通信電波を妨害する。位置情報を誤認させる。衛星の運用を妨げる。サイバー攻撃によって地上の管制設備を狙う。衛星に接近して監視や威圧を行う。こうした行為によって、衛星そのものを破壊しなくても、サービスの信頼性が損なわれる可能性がある。日本が整えるべきなのは、衛星を打ち上げる能力だけではない。妨害を検知する技術、通信を守る技術、複数の衛星網を使い分ける能力、そして障害が起きた後に迅速に復旧する仕組みまで含めた総合的な備えである。JAXAの研究成果を民間企業や政府の取り組みと結びつけ、必要に応じて海外の研究機関や通信事業者とも協力する。宇宙を利用する技術を持つだけでなく、宇宙に依存する社会を守る技術を持つこと。それが、これからの日本に求められるのではないだろうか。■ 他国を批判するだけでは、自立できないウクライナへの支援をめぐる米国の対応を見て、「アメリカは信用できない」と結論づけるのは簡単だ。しかし、国際政治において、どの国も自国の利益や事情を優先する可能性がある。米国だけが例外なのではない。だからこそ、日本は特定の国を無条件に信頼することを安全保障の前提にするのではなく、協力関係を維持しながら、自らの選択肢を増やさなければならない。日米同盟を大切にすることと、米国に依存しすぎない体制をつくることは、矛盾しない。むしろ、日本が自前の技術と通信基盤を持ち、欧州やカナダ、オーストラリアなどとも協力できるようになれば、国際社会で果たせる役割も広がるはずだ。ウクライナの経験から学ぶべきなのは、誰かに見捨てられることを恐れるだけではない。見捨てられた場合にも国民の生活と国家の機能を維持できるよう、平時から備えることである。宇宙通信は、そのための重要な柱の一つとなり得る。■ 日本は、いつまで他国の判断に命運を委ねるのか衛星通信は、もはや便利なインターネット接続の手段にとどまらない。災害時の連絡、社会インフラの維持、安全保障に関わる情報の伝達など、国の機能を支える基盤になっている。その基盤を他国の政府や企業に大きく依存しているならば、私たちは、その依存がもたらす危険について真剣に考えなければならない。JAXAの技術を生かせないか。日本と欧州、ウクライナ、カナダ、オーストラリアが協力できないか。衛星通信を一社、一国に依存しない仕組みをつくれないか。これらは、夢物語として片づけるべき問いではない。もちろん、実現には予算も時間も必要だ。技術的な課題も、外交上の調整も避けて通れない。しかし、危機が起きてから代替手段を探し始めるのでは遅い。他国の善意に期待するだけでは、国は守れない。自らの技術を育て、信頼できる相手と協力し、いざというときに自分たちで選べる道を確保しておくこと。それが、本当の意味での自立ではないだろうか。宇宙をめぐる競争が激しさを増す今、日本は問われている。他国がつくった仕組みを利用し続けるだけの国でいるのか。それとも、自らの技術を生かし、協力できる国々とともに、次の時代の安全保障を支える仕組みを築くのか。その選択は、未来の日本の安全と自由に関わる問題なのである。この話が気に入ったら、ランキングバナーをポチッと押していただけると励みになります。



