由美と美弥子 3115

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     女性の身体が、釣りあげた魚のように跳ねる。 初老の女性に、これほどの躍動力が残っていたことに驚いた。 男は、女性が足を滑らさないように抱き留めながら、とどめの指を押しつけた。「が」 抱き留めた身体が硬直した。 女性の頭が仰け反った。 細らんだ形の良い鼻の穴が、ヒクヒクと痙攣している。 女性の顔を上から覗きこんだ男は、ぎくりとした。 死に顔だった。 目尻が避けるほど目を見開いている。 しかし、細い血管が稲妻のように走る眼球には……。 瞳がなかった。 こんなところで死なれたら、大変なことになる。 力の抜けた女性の身体を抱きながら、一緒にバスタブに沈んだ。 女性の背を壁に凭せ、手の平を胸にあてる。 力が抜けた。 心臓は、しっかり鼓動していた。 気絶しただけなのだ。 安心すると今度は、自分が女性を絶頂に導いたという誇らしさが、じわじわと湧きあがってきた。 自分の人生は、これからなのだ。 もう無いと思っていた女性との交わり。 これからだったのだ。 そうだ。 今日はまだ、その一番大事なことをしていないではないか。 男は立ちあがり、シャワーヘッドを取った。 身体の泡はほとんど消えてしまっていたが、女性の肌にお湯を掛け流す。 気付けのつもりだった。 しかし、なかなか目を覚まさない。 さっきまで見開いていた目蓋は、すでに閉じていた。 閉じた睫毛の角度は、やや垂れていた。 この少し垂れた目元が、この女性に可愛らしさを残しているようだ。 愛しくなった。 母親ほどの年齢の女性なのに。 女性の胸は、静かに起伏している。 ひょっとして……。 眠ってしまったのだろうか。 無理もない。 脅迫者との対決を控えた前夜は、ほとんど眠れなかっただろう。 しかし、さらに深いところに沈もうとしているように見えた女性の身体が……。 ビクンと跳ねた。 ジャーキングと呼ばれる、入眠移行時に起こる筋肉の痙攣だ。 男も、椅子で居眠りしているときなどに、よく経験していた。 これで目が覚めてしまうことも、よくあった。 女性もどうやらそうだったらしい。 目が開いた。 頬に、状況を呑みこめない不安そうな翳がよぎった。 しかし、男の顔や、白いカーテンと壁で閉ざされた空間をのろのろと見回し……。 ようやくわれに帰ったようだ。由美と美弥子 3114 <目次> エロ本を拾った話
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