その酒の場で彼女から、思いがけない申し出がありました。　こちらで仕事を始めてから、わからないことがいくつか出て来た。　本社の事務員に問い合わせても、電話では上手く伝わらない。　本社の事務員は冗談半分に、宮高さんに来てもらったらなどとも言ったようです。　もちろん、彼女の申し出は、志津子を工場に呼んでほしいということではありませんでした。　逆です。　志津子の元を訪ねて、いくつか疑問点について尋ねたいと云うのです。　それなら問題ないと思いました。　その場で、気持ちよさそうに酔っ払ってた工場長を席に招きました。　社長の息子である工場長は、わたしに頼り切っています。　新しい事務員を家に呼んで、志津子に教えさせてもいいかと聞きました。　工場長は、団扇のように身体を揺らしながら、ぜひそうしてくださいと即答してくれました。　そうそう。　ここまで書いてきて、新しい事務員の名前を書き忘れていたことに気づきました。　槻本《つきもと》夕希子と云います。　お月さんの月本の方が、彼女には似合いそうですが。　家に帰り、新事務員が仕事のことを志津子に聞きたがっていると伝えました。　ひょっとしたら……。　辞めた会社にかかわることを、嫌がるかなとも思っていました。　でも、案外あっさりと応諾されました。　その後、本音を聞かされましたが。　つまり、わたしの下で働く事務員を見ておきたいということでした。「昭夫は、事務員だったわたしに手を出したわけよね。　前科があるのよ」「バカ言うなよ。　あのころのおれは独身だ。　今とは、まったく事情が違うだろ。　今の事務員とは、歳が20近く離れてるし」　翌週は、水曜日に祝日がありました。　とりあえずその日、顔合わせがてら、彼女をマンションに招くことにしました。　彼女は、9時半の約束に、遅れることなくやって来ました。　菓子折の手土産も持参していて、気配りの方も利きそうでした。　会社のシステムは、クラウドです。　パソコンにソフトをインストールするのではなく、ネットからログインできます。　もちろん、IDとパスワードが必要ですが。　彼女は、家から小さなノートパソコンを持って来てました。　でも志津子が、教えるには画面が大きい方がいいと言い出しました。　それで、うちにあるデスクトップパソコンを使うことになったんです。　そのパソコンは、わたしの書斎を兼ねた寝室にあります。　ベッドのある部屋ですが、デスクトップを持ち出すのは面倒なので、そこで研修してもらうことにしました。　わたしは、リビングでテレビを見てましたが、2人は午前中いっぱい籠もりきりでした。　お昼前に出て来たので、昼休憩かと思ったら、今日は終わりとのこと。　彼女は、午後から用があると言ってましたが……。　どうも、わたしたち夫婦の休日を丸1日潰すのを遠慮した風情でした。由美と美弥子 3208 ＜目次＞ エロ本を拾った話