セックスの良さが分からない女満里奈は初めてセックスを知ってから、セックスに魅力を感じることができずにいた。そんなことを話したら恋人に嫌われてしまうのではないかと思って打ち明けることもできず、結婚後もずっと消極的なセックスを繰り返していた。しだいにセックスを求められると身体が硬く緊張してしまい、触られることが苦痛に感じられるようになってしまった。自分でもおかしいとは思っていたが、どうすることもできない。「私も普通の人のようにセックスを楽しみたい」満里奈の切実な悩みだった。そんな満里奈が10年の結婚生活にピリオドを打ったのは、39歳のとき。夫の浮気をきっかけに別れを切り出したのは満里奈の方からだった。もっと私がセックスを楽しめる女だったら・・・もっと夫の誘いに乗っていれば・・・多少の後悔はあったが、これからセックスしなくて済むと言う人生も悪くない。夫は子どもを欲しがったが妊娠には至らなかった。何かに開放されたような、かすかなワクワク感さえ感じていた。結婚と同時に手に入れた都内のマンションは彼女の名義になり、ナースという職業がら仕事に困ることはない。優雅な独身生活のスタートだった。そんな満里奈に心境の変化があったのは、2011年3月11日に発生した東日本大震災。あの日は3月とはいえ、とても寒い日だった・・・都内の交通網はすべてストップし、満里奈は歩いて家路に向かう。途中、停電しているところもあり、マンションに着いたのは明け方だった。「明日が無いかもしれない！」みんな何も無いように普通に暮らしているが、もしかしたら明日大震災が起きるかもしれない。当時は、放射能で水道水が飲めないなど、いろんな風評被害もあり、都内のミネラルウォーターも売り切れで、実家から水を送ってもらっていた。震災は、被災地に大きな被害を与えただけでなく、節電や原発への意識の高まりなど、直接被災していない多くの人々の生活にも、多大な影響をもたらした。それは恋愛や結婚感にも及び、震災がキッカケで彼との絆を再認識した“絆婚”や、結婚への意識が高まり“絆”を求めて婚活する独身女性が増えた。ある女性誌によると、当時、既婚もしくは婚約中の人に「震災後、彼との絆な深まったか？」という質問したところ、58%の人が「あった」と回答。また、恋愛・結婚という視点からいうと、震災で一番大きな心境の変化がみられたのは、一人暮らしをする働く女たちだ。地震の揺れや震災で受けた“死”に対する恐怖、隣近所に親しい人のいない心細さ・・・『もし、また大震災がおきて自分が被災したときに、誰にも発見されなかったらどうしよう‥』そういう不安を感じた人も多いはずである。女は頼れる男がそばにいてくれるだけで、心強さを感じて安心できるもの。震災後、ここ関西でも、一人暮らしの独身女の家での依頼が増えたことを思い出す。満里奈が東京から、生まれ育った大阪に帰ろうと決心したのは、震災から半年後のことだった。もともと元夫以外、東京に知り合いがいない。東京のマンションを賃貸しして、故郷に戻り、すべてをリセットし、ひとりで生きて行くつもりだった・・・満里奈は大阪の実家に戻り数ヶ月過ごしたあと、職を見つけ、マンションで一人暮らしを始める。東京での暮らしを忘れるかのように仕事漬けの生活が始まった。そんな満里奈が再びセックスを意識し出したのは、言い寄ってくるある男のせいだった。「40代バツイチナース」と聞くだけで、周りの男たちの目が変わっていく。ナースという仕事柄、出会いの場が少なく、男との接触に抵抗がなく、性に対してもオープンというように勝手なイメージを持たれてしまう。声を掛けてくるほとんどが興味本位の既婚者。既婚者にはまったく興味がない満里奈だったが、ひとりだけ気になる存在がいた。それは、満里奈と同じ40代バツイチの検査技師の男だった。誠実な彼は、満里奈に何度も交際を申し込んできたが「その気はない」と断っていた・・・女が抱かれたくなる時女がセックスへと駆り立てられる理由の中で、気持ちよくなりたいという感情だけではない。女は、なにを求めて服を脱ぐのか？それは「愛」や「人肌のぬくもり」である。これは、女の性欲を考えるうえで、個人の生命を維持するために備わった本能であるという言い方ができるもの。それが「集団欲」である。『人はひとりでは生きられない』ということ。人が単体で生きるのは不可能である。人はひとりでは生きられない。人は人と共にいて、初めて生きられるのである。誰かがそばにいる安心感は、生命維持の安心感でもある。人間の集団欲は、本能と呼ぶべき、抗いがたい強いものである。より居心地のいい人間関係を作るために、社会に属し、家族に寄り添い、友人を作り、ひいては他人との合一願望へと深まっていく。それは、人の中にある集団欲という本能に共鳴しているかのようである。「誰かと深く理解しあいたい」「きつく抱きしめてほしい」「身も心もひとつになたりたい」これこそ、女の性欲を促す要素なのだ。性欲こそ、生きようとする本能！内なる生命力の現れで、なおかつ、人のもっとも人間らしい愛情の源泉なのである。女がセックスしたいと思うのは・・・「誰かを愛したいとき」 「誰かに愛されたいとき」「ひとりが寂しいとき」つまり、心の欲求である感情が先に起きて、肉体的快感への欲求は、それが救われた後から喚起される。寂しいから人肌を求めるというと、抵抗を感じるかもしれないが、心と身体が密接に結びついている女の本質を考えると、ごく自然のことである。誰にでも覚えがあるかもしれない。人との触れ合いが絶たれたときの、どうしようもない悲しい気持ち。　男の肌に安心感を求める、祈るような気持ち。こうした女特有の「人恋しさ」からくる『性欲』も、快楽を得る（イク）ための『性欲』も、根底にあるのは人と繋がりたいという本能から来るものである。最初は乗り気でなかった満里奈も、彼に食事を誘われるたびに、だんだん気になる存在になっていく。「今度誘われたら断らずに食事に行こう。」こうして、離婚後、初めて男と付き合うことになった。休日は弁当を作って遊園地デートしたり、お家デートも重ねて行くが、体の関係になることは拒みつづけた。満里奈は元夫を含めて歴代の男と別れた理由は、セックス絡みだった。今の彼ともセックスすることでまた失うかもしれない。リスクをおかしてまでも、自分から抱かれたいという思いが勝ることを待っているようだった。彼と居ると楽しい、毎日が楽しい、会えると思うだけでワクワクする。満里奈が抱かれる決意をしたのは、付き合って3か月後だった。優しい彼もずっとその日を待ち望んでいた。満里奈はムダ毛を処理し、セクシーな下着を買いに行って、その日に備えた。満里奈はシャワーを浴び、夕食とワインを用意し、キャンドルに火を灯して彼を自宅に招き入れた。彼には予め「私、あまり経験はないの」と伝えてある。正確に言うと「経験がない」のではなく「変なの」であるのに・・・彼は優しかった。繊細に優しく愛しさを込めてお互い触れ合っていく気持ちよさや、トロけるような口づけに安心感にも似た心地良さを感じた。これまでのセックスでは体験したことのない「気持ちよさに心と身体が緩んでいく」という感覚を初めて知った。『こんな気持ちよさがあったなんて・・・』しかし、彼の愛撫が性器に及んでくると、気持ちよさに身体が緩もうとすることに抵抗しようとする自分の硬さも強烈に感じるようになっていく。『どうして私はこうなんだろう・・・』と思えば思うほど、両親との関係、セックスをいやらしいものと否定する自分、歴代の男や元夫との苦痛に満ちた記憶などがよみがえり、締め付けるかのように苦しくなっていく。満里奈は、そこから抜け出せずにうごめいている弱い自分を変えたい、今の彼との愛を深めていきたいと真剣に思うのだった・・・～つづく～