人間の業 ― 綺麗事の裏側 第129話:【連載】知っておきたい認知症のコト 第29回
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2026-11-06 20:00:00
人間の業 ― 綺麗事の裏側 第129話副題:言葉の奥にある「心の声」を聴く――「帰りたい」と言われたとき認知症の介護に携わる中で、多くの方が一度は直面する言葉があります。それが「うちに帰りたい」「ここには居たくない」というフレーズです。自宅で一緒に過ごしている最中に言われて「ここがあなたの家でしょう」と説明してもご本人は納得せず、夕方や夜間になると不安そうにソワソワとし始める(いわゆる「夕暮れ症候群」)。このような場面で、どのように声をかけ、寄り添えばよいのか悩む介護者は少なくありません。第29回となる今回は、この「帰りたい」という訴えの裏に隠された心理と、具体的な接し方の視点について考えていきます。1. 「帰りたい」は場所の問題だけではない認知症が進行すると、時間や場所の認識(見当識)が曖昧になり、現在の自分の家を「自分の家」と認識できなくなることがあります。しかし、ご本人が訴えている「帰りたい」という言葉の真意は、単に「特定の住所へ移動したい」ということだけではありません。「安心できる場所」へ戻りたい現在の状況や人間関係に緊張や不安を感じており、「かつて自分が安全で、尊重され、心から安らぐことができた場所(多くは育った実家や、若かりし頃の慣れ親しんだ家)」を求めている状態です。「自分の役割」があった時代へ戻りたい「子供の夕飯を作らなきゃ」「仕事に行かなきゃ」という思いから発せられる言葉でもあります。自分が誰かの役に立っていた時代、主体的に動けていた時代への回帰願望でもあります。つまり、「帰りたい」は「今、ここで強い不安や困惑を感じている」というSOSのメッセージなのです。2. やってしまいがちな失敗と、その理由不安から来る訴えに対して、論理的な正論で説得しようとすることは、かえってご本人の混乱と不信感を深めてしまいます。「ここがあなたの家ですよ」と否定・説得するご本人の主観的な現実では「ここは自分の家ではない」と感じているため、否定されると「自分の感情や感覚を理解してもらえない」「嘘をつかれている」と感じてしまいます。「もう夜だから帰れません」と現実を突きつける「帰れない」という不都合な事実だけを突きつけられると、閉じ込められているような恐怖感や強い焦燥感を抱く原因になります。3. 心を和らげる対話法と具体的なステップ「帰りたい」と言われたときは、言葉そのものを真に受けて移動手段を考えるのではなく、「不安な気持ちを受け止め、安心感を提供する」アプローチが有効です。ステップ①:まずは感情に共感・同意するご本人の「帰りたい」という気持ちそのものをまるごと受け止めます。声かけ例:「自分の家がいいですよね」「お家が恋しくなりましたか」「ずっとここにいたら疲れますよね」まずは肯定し、共感することで、「この人は自分の味方だ」という安心感が生まれます。ステップ②:理由や思い出に耳を傾ける(傾聴)否定せずに、ご本人が思い描いている「家」や「予定」について尋ねてみます。,li>声かけ例:「おうちのお食事で何が好きでしたか?」「ご実家はどんなお家だったんですか?」昔の思い出を語ってもらう(回想法)ことで、脳の活性化とともに気持ちが落ち着きやすくなります。ステップ③:理由をつけて「ワンクッション」置く今すぐ帰るのが難しい状況でも、「帰れない」と拒絶するのではなく、肯定的な形で時間を稼ぎます。声かけ例:「今日はもう外が暗いので、明日明るくなってから一緒に行きましょうか」「今、バス(電車)が終わってしまったみたいなので、お茶でも飲んで少し待ちましょう」「外は雨が降っているので、やむまでここで休んでいきませんか」ステップ④:意識を別の場所へ向ける(話題・行動の転換)気持ちが少し落ち着いたタイミングで、関心を別の方向へ誘導します。お茶やおやつを一緒にとる(温かい飲み物は副交感神経を優位にします)簡単な手伝いを頼む(「洗濯物をたたむのを手伝ってもらえませんか?」「おしぼりを丸めるのを手伝ってください」など、自分の役割を感じられる作業)好きな音楽やテレビをつけるおわりに認知症の方が発する一見すると理不尽に見える言葉や行動も、その背景にある「不安」「寂しさ」「自信の喪失」という感情に目を向けると、違った景色が見えてきます。「帰りたい」と言われたら、無理に納得させようとせず、まずは「今、不安なんだね」と心の中で受け止めてあげること。それだけでも、介護する側・される側の双方の緊張感がふっと和らぐ瞬間が訪れます。完璧に対応しようと構えすぎず、「お茶でも飲んで一息つきましょうか」というゆとりを持って、一歩ずつ向き合っていきましょう。>この話が気に入ったら、ランキングバナーをポチッと押していただけると励みになります。



