人間の業 ― 綺麗事の裏側 第89話:ガソリンが尽きれば、女が来る

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    人間の業 ― 綺麗事の裏側 第89話(前編)副題:身体は許さない、炭は焼く世界情勢がぐらつき、ガソリンが「ある日突然」ではなく「じわじわ尽きた感」で消えていく時代。都会のタワーマンションは発電機の音で眠れず、スーパーの棚はスカスカ。そんななか、バツ3の美魔女・玲子(42、見た目は32を死守)は、仕方なく地方の炭焼き集落へ嫁ぐことになった。理由は単純で、都会では暖房も移動も金がかかりすぎ、田舎なら「炭を焼く男」がまだ現物経済で生きていたからだ。集落の男どもは、ニュースを見るなり鼻の穴を広げた。「ガソリンが死んだら、うちらの炭が主役やないか」「しかも嫁はんが都会のバツ3美魔女やて。俺にもとうとうチャンスがきた」朝から炭窯の前に立つはずの男たちが、作業着のまま玲子の仮住まいの縁側に群がる。煙は出ない。出るのは co₂ ではなく、欲望の湯気だった。玲子は縁側で缶コーヒーをすすりながら、冷たい目で彼らを見下ろす。「若いのは認める。筋肉もある。でもね、都会で暮らしてた女が、いきなりイモに身体を許す気にはなれないの。まず話をしましょう。炭の歩留まりと、冬の備蓄量と、私の化粧水が届くかどうか」男の一人、剛(28、日焼けして腕が太い)が前に出る。「化粧水なんぞ、うちで焼いた白炭でろ過した水で十分や! 今夜、窯の番しながら……」「窯の番はあなたがしなさい。私は室内でスキンケアするから」別の男が割り込む。「玲子さん、俺のところはクヌギの原木が豊富でっせ。炭だけやない、冬は暖かいですわ」「暖かいのは認める。でもね、身体を許す前に、まず私の前の3人の元旦那が残したローンの話を聞いてくれる? それと、週2回は都会のネット通販が動くように、あなたの軽トラで隣町まで走ってもらえる?」男たちは顔を見合わせる。仕事をほっぽらかして迫ったつもりが、いつの間にか「良いとこどり交渉」の場になっていた。玲子の計算はこうだ。田舎の男:現物(炭・米・暖房・力仕事)を提供自分:名前だけ嫁、実際の身体は「様子見」で温存世界情勢:ガソリンが本当に尽きたら炭の価格が跳ねる。そのとき co-owner として取り分を確保一方、男たちの計算はもっと単純だった。美魔女が来た今がチャンス仕事は後回し身体は今夜結果、昼過ぎになっても窯は一つも火が入らず、集落の煙突は静まり返っていた。隣村から「お前んとこ、炭足りてるか?」と電話がかかってくる始末。夜。玲子は布団に入らず、リビングのコタツでノートPCを開く(衛星回線はまだ生きていた)。画面には「今後のエネルギー需給予測」と「地方移住女性の交渉術」が並ぶ。剛が窓の外から小さな声で言う。「玲子さん……せめて手、握ってもええか」玲子は画面から目を離さず答えた。「握るのはいいわ。ただし、その手で明日の朝、必ず窯に火を入れること。火が入らなかったら、握った手はなかったことにするから」剛は小さくうなずき、手を伸ばす。温かい。炭焼きの手は、都会の男より確実に温かかった。玲子は心の中で呟く。(身体はまだ許さない。でもこの温度と、この現物経済は、悪くない)男たちは心の中で呟く。(今夜は無理でも、炭が値上がりしたら立場が逆転する。それまで仕事は……まあ、明日から本気出す)世界は不安定で、ガソリンは尽きた感が強く、木炭が脚光を浴び始めている。都会から来たバツ3美魔女と、チャンスだと飛びついた田舎の男どもは、どちらも「今だけは相手の良いとこだけもらう」作戦を続けていた。窯の火は、翌日から細々と、しかし確実に、上がり始めた。煙と一緒に、少しずつ、交渉の温度も上がっていく——まだ身体は許していない、という条件つきで。人間の業 ― 綺麗事の裏側 第89話(後編)副題:炭窯の女王とイモ男たち —石油が途絶えた日の求愛狂騒曲—文明の軋みと炭の匂いが充満する村の夜空に、都会育ちの女のため息が白く溶けていく。ガソリン供給が完全に滞り、世界の歯車が不穏な軋みを上げ始めた途端、かつて忘れ去られていた木炭窯が俄かに黄金を産む神殿へと変貌を遂げた。そしてその過熱した熱気は、長らく浮いた話のなかった村の男たちの頭まで見事に沸騰させていた。「ついに俺の時代が来たんじゃ……!」窯から立ち上る煙を後光のように背負い、勘違いという名の全能感に酔いしれる男たち。その無邪気で浅はかなギラつきを、バツ3の美魔女・玲子は冷ややかな眼差しで見つめていた。三度の離婚を経て培われた老獪な審美眼から見れば、都会の洗練とは程遠い泥臭い男たちの求愛など、喜劇以外の何物でもない。いくら「炭の王」として市場を牛禁じようと、磨き抜かれた己の肌を雑に差し出す気など毛頭なかった。しかし、玲子とて手ぶらで敗走するつもりはない。「オイルがなくても、この村には温もりとエネルギーがあるのね」玲子は上目遣いに微笑む。その仕草ひとつに長年かけて洗練させた艶を乗せ、男の物欲と庇護欲を巧妙に煽り立てる。求愛の執着に目を血走らせ、日々の農作業すら放り投げて迫りくる男の「下心」を、彼女は巧みに手玉に取った。男が必死になればなるほど、重労働は全て男の肩へと滑り落ち、彼女の手元には極上の暖と食料、そして過保護なまでの快適さが転がり込む。男は男で、あわよくばの欲望を糧に、鼻の下を伸ばして立ち回る。「あと一歩で手に入る」という幻想を絶妙な距離感でぶら下げられ、気付けば女の掌上で喜んで踊らされているのだった。世界の動乱という巨大な構造変化の足元で、泥臭い欲望を剥き出しにする男と、洗練された計算高さで生存権を確保する女。熱を帯びた木炭窯の煙の向こうで、互いの「良いとこ取り」を賭けた滑稽で逞しい攻防劇が、今宵も静かに繰り広げられている。>この話が気に入ったら、ランキングバナーをポチッと押していただけると励みになります。
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