人間の業 ― 綺麗事の裏側 第43話:人間の複雑な業(カルマ)や宿命
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2026-08-06 20:00:00
人間の業 ― 綺麗事の裏側 第43話(前編)副題:生まれ育った環境が違う二人の嫁入り ― 与える者と捨てる者夏の陽射しが障子を白く焼きつける午後、久美の手元に一通のハガキが届いた。差出人は高校時代の級友である。「お元気ですか。こちらは相変わらずです。長女の介護も、もう何十年になりますね。次男も手伝ってくれます。暑中お見舞い申し上げます」筆跡は少し震えていた。久美はハガキをテーブルに置き、窓の外を見た。隣県に嫁いだ彼女のことは、たまに思い出す程度だった。彼女は高校卒業と同時に、近所のお兄さんに乞われて嫁いだ。「幼い頃におしめを替えてくれた」というだけの縁だった。だが、最初の子は脳性麻痺で生まれ、生涯だれかの手を必要とした。二番目を産むことをためらう彼女に、久美は昔、何気なく言ったのだった。「独りじゃ、かわいそうじゃない?」四年後、彼女は次男を産んだ。気のいい両親も孫の世話を手伝い、夫も仕事の合間に長女の体を起こし、着替えを手伝った。やがて夫も彼女も眼病を患ったが、夫は治療を続けながら働き、定年を迎えた。六十七歳になった今も、夫婦で長女の介護を続けている。ハガキの「相変わらずです」という言葉が、静かに重い。一方、久美の次女・留美の級友にも、似たような話があった。彼女も高卒と同時に、裕福な家に乞われて嫁いだ。結婚当初は「いい結婚をした」と留美も言っていた。だが、半年もしないうちに彼女は夫に飽きた。外に男を作り、働きもせず遊び歩いた挙句、子供を置いて男の元へ走ったのだった。「家が窮屈だったんだよ」留美はかつて、そう言って肩をすくめた。同じように若くして嫁ぎ、同じように裕福な家に入った。なのに一方は三百六十五日、重い運命と子を抱え続け、もう一方は半年で家も子も捨てた。この話を聞いた知佳は、ふと漏らしたことがある。「両親のどちらかが、あるいは双方とも、自分のことばかり考えて育てたんじゃないか。与えられて当たり前で、自分から与える気のない相手には愛想さえ振れない。苦労の末に『人にはないもの』を得た経験がないからじゃないか」それは知佳の思い込みにすぎないのかもしれない。人間は、どこが違うとこれほどまでに異なる生き方になるのだろう。介護の日々を「相変わらず」と書く女と、子を捨てて「窮屈だった」と言う女。どちらが正しく、どちらが間違っているのか。正しさなど、最初から存在しないのかもしれない。ただ、選んだ道が、選んだ者を少しずつ削っていくだけだ。久美はハガキを引き出しにしまい、茶を淹れた。湯気がゆっくりと立ち上る。人間の業は、綺麗事の裏側で、いつも静かに息をしている。良し悪しを問うことさえ、業の一部なのかもしれない。(第43話 終 / 後編に続く)人間の業 ― 綺麗事の裏側 第43話(後編)副題:報われぬ愛と無情の欲望 ― 削り取られて残るもの冷めたお茶を飲み干し、久美は深く息を吐いた。手元の引き出しに仕舞い込んだ、震える文字の暑中見舞い。三十六年間、重い障がいを持つ長女を介護し続け、「相変わらずです」と静かに耐える高校時代の級友。その一方で、久美の次女・留美と、その友人である紗那絵(さなえ)のような女たちがいる。留美は先般、バスの時刻さえ上の空になるほどの動揺を抱えて帰省してきた。自らの欲望と「漢」のために家族や先祖を顧みず、美貌を免罪符にして男たちを乗り換えていく紗那絵の生き様。子供が二十歳になったら……などという言葉はただの建前で、裏では不倫相手との間に子を設け、前の家庭を崩壊させ、挙句の果てに新しい夫に築浅の家を売らせて平屋の新築をねだる。留美はその壮絶な「搾取と略奪の完成形」に焦燥を覚え、敗北感すら滲ませて母に語っていたのだった。独身時代、結婚したての友人の家に乗り込んで夫を誘惑したほどの留美でさえ、どこか呑み込まれるような虚無を漂わせている。若くして嫁ぎ、美貌に恵まれ、裕福な家に入った点では同じはずだった。一方は、苦難を受け入れ、報われる保証もないまま毎日介護に身を削る。もう一方は、家族を捨てることも子供を追いやることも踏み台にし、自らの情熱とエゴのためだけに男から男へと渡り歩く。世間は往々にして、前者を「不幸な犠牲者」と哀れみ、後者を「自由で自分に正直な女性」と持てはやすことさえある。法に触れさえしなければ、美貌という免罪符を持つ者の勝手気ままは、時にドラマチックな自立として肯定されてしまうのが、この世の皮肉な現実だ。だが、本当にそうだろうか。「愛想を振りまく気もない。苦労の末に人にはないものを得た経験がないからだ」知佳がそう評したように、与えられることを当然とし、身勝手な欲望に背中を押されて生きる女たちは、本当に「勝利」しているのだろうか。それとも、どれほど男を取り替えても埋まらない乾きに怯え、死ぬまで他者の温もりを搾取し続けるだけの怪物なのだろうか。一方で、三十六年間ただ黙々と愛娘を支え続ける級友は、世間から見れば苦難の人生に見えるかもしれない。しかし、その震える筆跡の中に宿る静かな覚悟と、誰にも奪われない絆の重みを、私たちは否定できるだろうか。人間の業は、綺麗事の裏側でいつも静かに息をしている。人間のどこが違うと、これほどまでに隔たった生き方になるのだろう。苦難の中で他者に与え続ける生き方と、美貌を誇り他者から奪い続ける生き方――。あなたは、どちらの生き方に「人間の真実」を感じますか?そして、最後に削り取られて残るものは、一体どちらなのでしょうか。(第43話 完)>※完全オリジナル作品です。二次創作ではありません。#人間の業 #歴史の循環 #心理小説 #綺麗事の裏側この話が気に入ったら、ランキングバナーをいただけると励みになります。
