人間の業 ― 綺麗事の裏側 第37話:相手には『本気度(年収と包容力)』を厳しく試すくせに、自分は『拒絶』という拒否権しか差し出さない傲慢さ

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    【第37話の核心】相手には「本気度(年収と包容力)」を厳しく試すくせに、自分は「拒絶」という拒否権しか差し出さない傲慢さ。綺麗事で包まれた「性行為拒否」の裏にあるのは、誠実さの証明ではなく、リスクを一切負わずに相手のリソースだけを搾取しようとする計算だった。だが、何も差し出さない者が、本当に誰かから選ばれることなどあるのだろうか――。人間の業 ― 綺麗事の裏側 第37話(前編)副題:「性行為抜きでなら結婚してあげる」契約の純潔(前編)マッチングアプリの画面は、夜の寝室を青白く照らしていた。美咲はベッドに横になり、スマホの画面を親指で軽やかにスワイプする。プロフィール写真は、磨き抜かれた「完成品」だ。エステ後のツヤ肌、計算された角度の微笑み、高級ホテルのラウンジを背景にした一枚。年収表示は「秘密」、職業は「会社員」。本当の週末の顔――ソープランドでの「仕事」――はもちろん、どこにも書いていない。通知が鳴る。年収1200万、大手メーカー勤務、32歳の男性からメッセージが届いた。『はじめまして。プロフィール拝見して素敵だなと思いました。もしご縁があれば、結婚を視野にゆっくりお話しできたら嬉しいです』美咲の指が止まった。画面をじっと見つめ、ゆっくりと微笑む。その笑みは、鏡の前でリップを引くときのものとまったく同じ、人工的な曲線だった。彼女は迷わず返信を打ち始める。『はじめまして。私も同じ気持ちです。ただ、正直に申し上げますね。性行為抜きでなら、結婚してあげます』送信。画面の向こうで男がどう表情を変えるかなど、美咲はどうでもよかった。彼女にとってこの一文は、ただの「フィルター」であり、優位に立つための「契約条件」だった。ネット上では、似たような言葉が静かに、しかし確実に流通している。婚活掲示板や匿名の質問箱、マッチングアプリの相談コーナー。「結婚するまでキスもセックスもしたくない」「体の関係なしで真剣交際できる方のみ」「性行為抜きでも夫婦として生活できる人と結婚したい」彼女たちは口を揃えて言う。「本気の男性を見極めたいから」「軽い関係に疲れたから」「自分を安く扱われたくないから」だが、冷たい観察眼でその綺麗事を解剖すれば、風景は一変する。彼女たちが本当に欲しているのは、純潔でも誠実な愛情でもない。「結婚」という社会的な肩書きと、男が差し出す安定した生活インフラだ。セックスという「対価」も「歩み寄り」も払わずに、男のリソース――金、地位、家、姓――だけを無傷で手に入れるための、きわめて巧妙なリスク排除の交渉術。美咲は画面をスクロールしながら、独りごちた。「週末はあんなに体を使って稼いでるのに。平日のアプリでは急に『純潔』を売りにするなんて、笑えるわね」彼女の頭の中では、すでに冷徹な損益計算が弾き出されていた。ソープでの稼ぎで外見を完璧に仕上げる。アプリで高スペックの男を釣り上げる。「性行為抜き」という条件を突きつけることで男の本気度を試し、同時に自分の価値を吊り上げる。結婚が成立すれば、生活は安泰。性欲は別の場所で処理すればいい。夫が気づかなければよし、気づいても「別居」「セックスレス」として黙認させればいい。ネットの片隅では、男たちの困惑と悲鳴も聞こえてくる。「条件を出された瞬間に一気に冷めた」「真剣に結婚を考えているのに、最初から拒絶されて寂しい」「結局、自分という人間ではなく、金と安定だけが欲しいんじゃないのか」だが、女たちは涼しい顔で切り捨てる。「本気じゃない男性が去るだけよ。私たちは、ちゃんと自分を大切にしてるの」美咲は次のメッセージを開いた。別の男――医師、35歳、年収2000万超。『条件、理解しました。むしろ誠実だと感じました。一度会ってお話ししませんか?』彼女は小さく笑い、返信を打つ。『はい。ただし、最初からお伝えしておきます。体の関係は、結婚後も基本的には考えていません。それでもいいなら、結婚してあげます』送信ボタンを押す指に、迷いはなかった。彼女にとって結婚とは、愛情の到達点ではない。「張り子の肉体」で仕留めた最高の商品を、最も高く売りつけるための、最終的な契約書だった。スマホの光が消えると、部屋は暗闇に戻った。美咲は天井を見上げ、静かに目を閉じる。(色気以外、中身はすっからかん――。でも、それで十分よ。男なんて外見と条件でしか女を選ばないんだから)鏡の中の空洞は、今夜も静かに広がっていた。(第37話 後編へ続く)人間の業 ― 綺麗事の裏側 第37話(前編)副題:「性行為抜きでなら結婚してあげる」契約の純潔(後編)高級ホテルのラウンジには、優雅なピアノの旋律が流れていた。美咲はテーブルの向かいに座る男――医師の鷹野(たかの)を、計算し尽くされた角度で見つめる。鷹野は35歳、シュッとした立ち姿に仕立てのいいスーツ。アプリのプロフ通り、年収2000万超えの「超・高スペック男」だった。「アプリでお伝えした通りです」美咲は、エステで磨き上げた完璧な肌に上品な微笑みを浮かべ、紅茶のカップを置いた。「私、恋愛感情の延長にあるような体の関係って、どうしても受け入れられないんです。でも、お互いを尊重し、社会的なパートナーとして支え合える家庭を作りたい。……それでも私を選んでくださるなら、結婚してあげてもいいですよ」ネットの婚活掲示板で女たちが喧伝する『本気の男性を見極めるフィルター』という名の綺麗な建前。だが美咲の本音は違う。(平日はアプリの男に金と安定を出させ、週末はソープの客に体を売って大金を稼ぐ。リスクも性交渉のリソースも夫には絶対に割かない。完璧なビジネスモデルよ)鷹野は一瞬、静かに美咲の顔を見つめ、それから満足そうに頷いた。「素晴らしい条件です、美咲さん。実は僕も……『性行為なしの結婚』を望んでいたんです」美咲の胸の奥で、カチリと小さな音がした。期待通りだ。男は「誠実な自分」「女のわがままを受け入れる器の広い自分」に酔っている。あるいは、極度の奥手か。どちらにせよ、カモには変わりない。「本当ですか? 理解のある方に出会えて嬉しいです」「ええ。僕たち、すごく相性がいいかもしれない」こうして、二人の交際は一切のスキンシップがないまま進み、わずか半年で婚姻届が提出された。都内一等地にあるタワーマンション。美咲は晴れて「医師の妻」という最上の肩書きと、自由に使えるクレジットカードを手に入れた。週末は相変わらず「実家に帰る」と嘘をつき、風俗店で割り切った肉体労働をして現金を溜め込む。平日は夫のカードでブランド品を買い、タワマンのラウンジでSNSに映える写真を投稿する。性交渉の拒否を「純潔」や「自己愛」にすり替え、男のライフラインを搾取する。美咲の思惑は完璧に成功したかに思えた。――結婚して、一年が過ぎたある夜のこと。リビングでシャンパンを飲んでいた美咲は、ふと思い立って鷹野に尋ねた。「ねえ、あなた。本当に私と体の関係がなくても平気なの? 浮気とかしてないでしょうね?」美咲としては、軽い牽制のつもりだった。自分が主導権を握っていることを再確認するための、戯れだ。鷹野はパソコンから目を離さず、穏やかな声で答えた。「浮気なんてするわけないじゃないか。僕が求めているのは、君の『体』じゃない。……ただの『無害な妻』という存在だからね」美咲の手が止まった。「……どういう意味?」鷹野は静かにパソコンを閉じ、美咲に笑顔を向けた。その笑顔は、美咲が鏡の前で作るあの「人工的な曲線」と恐ろしいほど似ていた。「美咲さん、僕の病院は親族経営なんだ。三十を過ぎても独身だと『人格に問題がある』とみなされて、理事の座に就けない。それに、親戚からは毎週末のように見合い写真を押し付けられていた」彼が淡々と語り出す。「僕に必要なのは、世間体と親を黙らせるための『まともで見栄えのいい妻』という飾りだったんだ。でも、恋愛感情を持たれたり、夜の営みを求められたりするのは面倒でね。君の『性行為抜きでなら』という条件は、僕にとって願ってもない『無干渉の契約』だったんだよ」美咲の背中に、冷たい汗が伝った。「それにね」鷹野は続けた。「君のクレジットカードの利用履歴、そして週末の行動……調査会社を使えばすぐに分かったよ。風俗での副業もね」「っ……!?」美咲の顔から一気に血の気が引いた。「警察に言う? 離婚する?」美咲は声を震わせた。だが、鷹野は可笑しそうに首を振った。「まさか。バラすわけないじゃないか。世間に知られたら僕の世間体に傷がつく。それに、君が風俗で稼ごうが、外で誰と寝ようが、僕にはどうでもいいんだ。だって、僕たちは『体の関係なし』の契約夫婦なんだから」鷹野は立ち上がり、美咲の肩をそっと叩いた。「君はこれからも『医師の妻』として完璧に振る舞ってくれればいい。その代わり、僕の財産の生与与奪権はすべて僕が握る。生活費は渡すけれど、カードの限度額は明日から大きく下げるよ。離婚したいならしてもいいが……風俗の経歴を公表されたら、次の婚活は難しいんじゃないかな?」美咲は言葉を失った。彼女は「性行為の拒否」という条件を盾に、男を支配し、リソースを搾取しているつもりだった。しかし、本当に搾取されていたのは彼女の方だったのだ。鷹野にとって美咲は、愛情を注ぐ対象でも、男としての欲求を満たす相手でもない。ただの「都合のいい置き物」。自分のキャリアと世間体を維持するために、市場価値の高い「美しい肉体」を月額の維持費だけでレンタルしていたに過ぎない。「じゃあ、明日は学会だから早めに寝るよ。おやすみ、美咲さん」寝室へ消えていく鷹野の背中を見送りながら、美咲は静まり返った豪華なリビングに一人取り残された。ソープで磨き上げた肌も、計算された微笑みも、ここには何の意味も持たない。男を試すための「条件」という刃は、めぐり巡って美咲自身の首を絞めていた。美咲は暗い窓ガラスに映る自分の姿を見た。そこには、愛されることも、求められることもなく、ただ一棟の高級タワーマンションに飼い殺される、美しい張り子の人形が立っていた。(第37話 完)>※完全オリジナル作品です。二次創作ではありません。#人間の業 #歴史の循環 #心理小説 #綺麗事の裏側この話が気に入ったら、ランキングバナーをポチッと押していただけると励みになります。
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