人間の業 ― 綺麗事の裏側 第34話:平和を守るには、綺麗事だけでは足りず、時には力を示す覚悟も必要である。
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2026-07-27 20:00:00
人間の業 ― 綺麗事の裏側 第34話(前編)副題:理不尽な隣人と牙をむく身内正樹は久しぶりに実家へ帰ってきた。庭の隅で、見慣れない男がプレハブ小屋を組み立てている。隣家に住む張本だった。木材や鉄骨が積み上げられ、すでに基礎まで出来上がっている。正樹は思わず駆け寄った。「何をしているんですか。そこはうちの敷地ですよ。」張本は振り返ると、鼻で笑った。「少し作業道具を置かせてもらっているだけだ。文句あるのか。」そう言いながら鉄パイプを肩に担ぎ、正樹の目の前へゆっくり歩み寄る。「余計な口を出すな。」その威圧的な態度に、正樹は胸の奥が熱くなった。「ふざけるな。人の土地に勝手に建物を建てていいわけがない。今すぐやめろ。警察にも連絡する。」正樹がスマートフォンを取り出そうとした、その瞬間だった。背後から父親の声が飛んだ。「正樹、やめなさい!」振り向くと、父と母、そして妹が青ざめた表情で立っていた。母は慌てて正樹の腕をつかむ。「相手を刺激したらどうするの。」「でも、うちの庭なんだよ!」父は首を横に振った。「話し合いが大切だ。感情的になってはいけない。」妹も不安そうに言う。「お願い、お兄ちゃん……揉め事は嫌。」正樹は信じられなかった。目の前では、他人が自分たちの敷地に建物を建て始めている。それなのに家族は、その男ではなく、自分を止めようとしている。母は張本に向かって深々と頭を下げた。「息子が失礼しました。どうか気を悪くなさらないでください。」張本は満足そうに笑った。「最初からそうしていればいいんだ。」正樹は思わず声を荒らげた。「このまま放っておいたら、庭を丸ごと取られるぞ!」しかし返ってきたのは、家族の冷たい視線だった。「お前は血の気が多すぎる。」「ご近所から『恐ろしい家だ』と思われるじゃないか。」「家庭の平和を乱すな。」誰一人として、張本に「出て行け」とは言わなかった。やがて近所でも噂が広がる。「あの家は昔から穏やかだったのに、長男が帰ってきてから険悪になったらしい。」「あの子はすぐに強い態度に出るからね。」正樹だけが、「問題を起こす人間」として見られていった。一方で張本は、その様子を黙って見ていた。家族が自分に対しては低姿勢で、身内には厳しいことを。家族の意見が一つではないことを。そして──誰も本気で自分を止めようとはしないことを。数日後、張本はさらに資材を運び込み、庭との境界に沿って目隠し用のフェンスを立て始めた。「ここは昔から俺が使っていた場所なんだ。」その言葉を、誰も否定しなかった。正樹だけが、小さく拳を握り締めていた。「外からの強引な振る舞いには頭を下げ、身内が立ち向かおうとすると、その身内だけを責め立てる……。これが、人間の業なのか。」(前編 了)人間の業 ― 綺麗事の裏側 第34話(後編)副題:家族の庭と、遠い南の海ある夏の夕方、郊外の小さな一軒家で、佐藤家はいつものように食卓を囲んでいた。父・正一は新聞をたたみ、ため息をついた。「またか……中国海軍が、南鳥島周辺の日本の排他的経済水域で実弾射撃訓練を行ったそうだ。政府は外交ルートで抗議したらしい」大学生の息子・健太がスマートフォンから顔を上げた。「抗議だけ?」「そうらしい」健太は少し考えてから言った。「もし他の海洋国家だったら、もっと厳しい対応を求める声が上がるんじゃないかな」母・美智子が静かに首を振る。「でも、日本は戦後ずっと平和国家として歩んできたでしょう。軍事的な対抗は、緊張を高めるだけよ」高校生の妹・沙織が不安そうに口を開く。「でも……何もしなかったら、相手はどんどん大胆にならないの?」食卓は重苦しい空気に包まれた。その夜も議論は平行線だった。「自衛隊や海上保安庁が監視を強めるとか、何か示した方がいいと思う。」健太が言う。美智子は首を振る。「力を見せれば相手も意地になるわ。」父の正一も続けた。「外交で解決するしかない。感情的になれば取り返しがつかなくなる。」健太は苦笑した。「隣の家の人が毎週うちの敷地のすぐ脇まで来て、大音量で騒いでいるのに、『抗議しました』だけで終わるようなものじゃないか。」誰も答えなかった。数日後。近所の不良グループが佐藤家の庭との境界ぎりぎりに、勝手にテーブルと椅子を置いて集まり始めた。騒ぎ声が毎晩聞こえる。ゴミも散らかる。正一は警察へ電話した。「注意はしますが、すぐに強制排除できる案件ではありません。」そう言われた。正一は家族へ向かって言った。「警察には伝えた。様子を見よう。」翌週。テーブルは二つになった。その翌週には、敷地との境界を越えて花壇を踏み荒らし、勝手にバーベキューまで始めた。健太は立ち上がった。「もう十分だろ!柵を作るとか、防犯カメラを増やすとか、もっと具体的な対策をしようよ!」美智子は必死に止めた。「刺激したらもっと大変になるかもしれないでしょう!」沙織も震えながら言った。「お願い……争わないで。」正一は静かに言う。「冷静に対応するんだ。」季節が変わる頃。境界付近はすっかり不良たちのたまり場になっていた。近所の人は言う。「あの家は穏やかな人たちだから。」健太は一人、庭先に座って呟いた。「身内同士では正論をぶつけ合う。でも、本当に外から圧力を受けたときには、『波風を立てるな』と言って何もしない。問題を先送りしている間に、状況だけが少しずつ変わっていく。これが人間の業なのか。」そのとき、不良の一人が笑った。「何か文句あるのか?」健太は何も答えなかった。スマートフォンには、日本近海で再び中国海軍が活動しているというニュースが静かに流れていた。(後編 了)>※完全オリジナル作品です。二次創作ではありません。#人間の業 #歴史の循環 #心理小説 #綺麗事の裏側この話が気に入ったら、ランキングバナーをポチッと押していただけると励みになります。
