揺れる心 第3話

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2025-01-20 07:50:37
敏則の真剣なまなざしに、栞の中の何かが弾けた。栞は幾たびか敏則の後をつけ、梨沙の存在を知った。 とられてなるものか。 そんな気持ちが芽生えるのに、そう時間を要しなかった。 そんな想いを胸に敏則を描き続け、いつのころからか自分は女であるという意識が芽生えた。 画学生のころは平気だったはずなのに、彼の肉体に惹かれていく自分がいた。 童貞を性的に意識し始めたことに気付かされたと同時に初めて、この歳になって女としての焦りを覚えた。 いてもたってもいられなくなり、彼の動向を密かにうかがう日々が続いた。 傍目にも育ての親、つまり叔母甥の関係であるはずの梨沙が自分の専用物と思っていた敏則に恋心を寄せていることがわかった。 中年女の、それも世間でいうところの姦淫女に奪われてなるものか!そんな憎しみに似た気持ちが芽生えた。「一息入れてくる」そう言い残し栞は、二階へと上がっていった。 敏則はいつものように使った筆を洗浄し、散らばった絵の具のチューブを片付け終えたが、いつまでたっても栞は降りてこなかった。「遅いなあ……先生、何してんだろう。 どこか具合でも悪いのかな?」これまで一度だって上がったことのない二階へと足音を忍ばせ上がっていった。叔母の梨沙に、常日頃から門限を言い渡されていた。 クラブがあるときは8時までに、そうでないときは6時までに帰らねばならない。 その時刻が迫っていた。 階段を上がると、部屋のドアを開けた。「ご、ご、ごめんなさい」慌ててドアを閉めようとするが、身体が硬直し動くに動けない。 栞は真っ赤なブラとパンティだけ身に着け、姿見の前で自分の体に見入っていた。「着替え中だとは思わなかったから……」しどろもどろの敏則に「あら、着替えるって言わなかった? そんなわざとらしい態度とらなくてもいいのよ。 叔母さんに散々あてつけられ、溜まってるんでしょ? 見たいんじゃなかった?」 図星だった。 この頃では女なら誰でもいい、そんな風な感覚が芽生え始め、モデルでありながら雇い主の栞に梨沙を重ね合わせし、股間を膨らませてしまい、ある種落ち込んでいたが……。 あまりの驚きに腰砕け状態になり、近くにあったソファーにストンと腰掛けてしまった。 その敏則の隣に、栞は膝を突き合わせるような格好で座った。 うつむいた視線の先にパンティの食い込みが見える。 慌てて顔を上げるが、その視線の先に赤いブラに包まれた豊かな胸に谷間が見えた。 敏則が階下で待つ間にさしたんだろう口紅が濡れ光り、首元から甘い香りが立ち上る。「おっ、お母さんと一緒に夕食食べると言ってあるから……」出勤する前に約束通り夕ご飯は家で食べると言ったつもりだった。「――女にこんな格好させといて、帰るっていうの? こうまで尽くす女を、フッて帰るような子だったっけ?」 うつむいた目から何かが零れ落ち、床を濡らした。 真っ白な膝小僧を敏則の太股に押し付け、身動きできないとわかると真っ赤なブラを肩口に押し当ててきた。「少しぐらい遅れても、ご飯大丈夫なんでしょ?」半ベソでこう問われ「うん、7時過ぎに家を出るから」それまでに帰れば、なんとか言い訳できる風に応えてしまっていた。 その言葉を耳にした瞬間、栞は待ってましたとばかりに敏則にしなだれかかってきた。 敏則がバイトに来てからというもの、栞は雇い主然、年上ということもあり何事にかけても命令口調だった。 その点でいえば叔母の梨沙も同様で、一度として隙を作ってくれなかった。 厳しい態度で接し続けた雇い主の栞がなよなよと縋り付いてきた。 同窓の女の子が恋バナ中よく口にする「理想は守ってくれる、男らしいオトコがスキ」の「男らしいオトコ」になれそうな気がした。「時間が来たら、途中でも帰る。 約束だよ」力を入れすぎたら骨折でもしそうなたおやかな肩を引き寄せ、きっぱりと言い切ると「はい……」敏則の眼前に、真っ赤なブラとパンティだけの姿で立ち上がり、敏則がモデルを務めたときのように妖艶な肢体を晒し、高く売りつけるべく身をよじらせジリジリと迫り始めた。>