由美と美弥子 3090

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     男は、キャップを目深に被り、マスクをし……。 ダイレクトメールを詰めたメッセンジャーバックを、肩からたすき掛けにした。 普段の黒メガネは外し、コンタクトレンズを装着した。 在宅で仕事をするようになって以来、コンタクトはほとんど使わなくなっていた。 細く平板な目元なので、この方が目立たないだろう。 学生のころ、初めてコンタクトレンズにしたとき……。 友人の第一声は、「似合わない」だった。 素顔が似合わないと言われては、憮然とするほかはない。 それほど、黒メガネあってのキャラだったのだろう。 ともかく、支度は出来た。 あとは、挙動不審にならぬよう、自然に振る舞うだけだ。 白髪女性のマンション入口は、まず、2メートルほどの階段をあがるかたちになっていた。 つまり、前の歩道を通る人からは、エントランスが見透せないのだ。 プライバシーを売りにした造りなのだろう。 しかし、歳を取ったら大変だ。 大きなお世話だろうが。 男は、メッセンジャーバックを揺すりあげ、ダイレクトメールの束を覗かせた。 あとは、なるようになる。 おれは、ダイレクトメールを配ろうとしているだけなのだ。 顔の表情を消し、階段をあがり切ると、エントランスのガラス扉が迎えてくれた。 いや、迎えてくれてはいないだろうが。 それでも、少なくとも拒否だけはされていない。 ガラスの前に立つと、あっけなく自動扉が開いた。 入ったところは……。 近代的寺院の納骨堂に似ていた。 子供のころ、祖父の四十九日の法要で、1度入っただけだが。 何もない空間だった。 管理人室の窓もない。 奥には、もうひとつ扉があった。 その前に、テンキーの付いた演台のようなものが設置されている。 明らかに、内部の部屋と連絡を取るためのインターホンだ。 やはり、オートロックだった。 部外者は、中には入りこめない。 しかし、男の用は部屋番号を確認するだけだ。 管理人室がないのは、むしろ好都合だった。 さっき、納骨堂と感じたのは……。 エントランスの片面一杯に設置された郵便受けだった。 号室と姓が貼ってある。 白髪女性の部屋の階は、上から3段目だった。 下から数えないのは……。 1階の構造がどうなっているかわからないからだ。 1階に部屋がない構造だったりすれば、下から数えたら間違う場合があるだろう。 そして、部屋番号。 案の定、4号室と9号室は存在していない。 近代的な仕組みのマンションでも、未だにこうなのだ。 好き好んで、その部屋番号を選ぶ客はいないだろう。 飛ばした方が、遙かに売りやすいに違いない。由美と美弥子 3089 <目次> エロ本を拾った話
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